施工前調査と
足場計画図

足場の施工前に現場調査は必要ですか

(2021年2月16日 掲載)

 段どり八分仕事二分という言葉があります。仕事の出来の良しあしは準備の段階で大方、決まるという意味です。「段取り」という行為の中でも、足場計画図の作成は肝心要の部分です。設計は、品質を作りこむプロセスだからです。
 この業界では、足場計画図を作成せず「現場合わせ」で足場を組み上げる足場事業者も存在するようです。しかし、丸太足場のようなフレキシビリティ(融通性・自在性)のある足場はともかく、規格部品で構成されるくさび式足場で計画なしに組み上げたものが安全性や作業性を担保するものではありません。どんなに熟練した職人であっても、場当たり的に組み立てた足場が、それを使用する職方を満足させることはできません。
 施工前の現場調査は、この足場計画図の作成のために行います。
 日本の住宅は、狭い敷地に建築され、障害物にあふれていることが少なくありません。足場の施工は、敷地の状況に大きく左右されます。足場の設計は、こうした周囲の状況を考慮しながら行います。
 とくに、リフォーム工事では建物の図面すら用意されていないことも多く、事前調査のときに建物の寸法を実測することが多々あります。
 足場を完成させるのに丸一日かかったとして、現場調査や足場の設計に同じ程度の時間を要することもあります。しかし、このプロセスを疎かにしては、安全な足場を提供することはできません。
 厚生労働省の「より安全な措置」とは
 厚生労働省は、2015(平成27年)7月、労働安全衛生規則の足場関係の規定を改正し、足場からの墜落災害防止措置を強化しました。このとき、「足場からの墜落・転落災害防止総合対策推進要綱」(平24基安発0209-2告示、平27基安発0520-1改正)を合わせて改訂し、労働安全衛生規則に基づく法定の措置以外にも「より安全な措置」を推奨しています。
 そこでは、別稿『足場の幅木の高さ』で解説した幅木等の追加措置のほか、「足場の組立図を作成し、関係労働者に周知すること」や「足場の組立て等作業主任者に能力向上教育を定期的に受講させること」を求めています。
 こうしたこともあり、近年、足場工事の前に、住宅メーカー等が足場計画図の提出を求めるケースが増えています。この場合、CAD図面を作成することになります。このCAD図面は、足場計画図が建物の形状や敷地の状況を考慮して適切に作成されていることを検証できなければなりません。また、何らかの不具合が発生したときに、その原因をトレースできなければなりません。

新築現場の事前調査
敷地寸法のほかに実際の基礎の高さなどを測る
現調風景
Jw_cadで作成した事前調査図
(細かな寸法や説明は割愛している)
現調図
Jw_cadで事前調査図にビケ足場部品を挿入した足場計画図(平面図)
足場計画図(平面図)
Jw_cadで作成した足場計画図(立面図)
足場計画図(立面図)
 事前調査、計画、足場組立は三位一体
 ところが、足場事業者の中には、CAD図面の作成を外部に委託するなどして、CAD図面は単に提出用とし、実際の施工図が相違することがあります。
 CAD図面の提出それ自身が目的化し、足場計画図の作成によって品質を作りこむというプロセスがないがしろにされているというのであれば本末転倒な話です。
 事前調査から現場の管理までをマネジメントする担当者はCADスキルの習得に真剣に取り組む必要があります。とりわけ、建築業界で標準的なツールのフリーCADソフト、Jw_cadは有力です。
 (特にリフォーム工事の)事前調査図はCAD図面として仕上げるべきです。なぜなら、その方が手書きするより早く、正確に、そして綺麗にできるからです。
 足場計画図を作成するのは、直接、足場を施工するスタッフであるか、あるいは営業担当者のような管理スタッフであるかを問いません。いずれにしろ、作業性や安全性を担保する、使う人目線で計画する必要があります。
 この計画図をCAD図面として仕上げるかどうかは本質的な問題ではありません。問題なのは、最適な計画図がつくられ、その通りに施工されるということです。
 取引先に提出するなどの理由で、足場計画図をCAD図面として作成する必要がある場合は、事前調査図に足場部品の図形を挿入して、そのまま活用することができます(図参照)。
  設計力は施工者の能力を判定する最大の指標
 設計が品質を作りこむプロセスとすれば、施工品質を向上するためには設計力を底上げすることが重要になってきます。
 住宅用足場のような比較的小規模の足場の組立の場合、2~3人の少人数でチームを編成し、設計自身も当該チームが行うということが少なくありません。この場合、足場の事業会社は、当該チームの作業主任者の設計能力を高める努力を怠ってはいけません。
 ところで、作業主任者や施工スタッフの能力向上には、さまざまなテーマがあります。
 現場のマナー、安全衛生関係法令の知識、作業人員の適正な配置や指示の仕方、正しい作業手順や作業の方法など。いずれも、作業者の教育に欠かせない項目です。しかし、私見を言えば、多くの事業者で設計能力の向上に必要な努力が疎かにされている傾向がみられます。
 設計能力は現場品質を左右するスキルです。設計品質の確立なしには、高品質のサービスを提供することができません。
 作業者の能力を評価する方法のひとつとして、作業手順や方法に力点を置いた評価制度があります。安全に作業を進めるためには、正しい作業手順を選択することが大切です。しかし、繰り返しになりますが、それだけでは提供する足場の品質の向上には寄与しません。
 むしろ、施工の現場では現場状況に応じて安全な作業手順を組み立てる能力が問われます。くさび式足場は、右利きの人は時計回りに組み立てていくことが推奨されます。しかし、3面が狭隘で1面からしか資材の搬出入ができない場合、「時計回り」の作業手順を杓子定規に考える必要がありません。そして、実際には教科書的な現場というものは一つとしてありません。
 こうした教育プロセスに特徴的なのは、典型的な現場状況に拘泥するばかりに枝葉末節を掘り下げ、「控え材と筋かいはどちらを先に設置すべきか」などとアキレスと亀の詭弁のような議論が熱を帯びることです。
 「木を見て森を見ない」のではなく、俯瞰的な視点から人材の育成と足場品質の向上に努める必要があります。  (文責・松田)