足場計画図とバルコニー周りの足場

バルコニー周りをどのように組みますか

(2016年5月26日 掲載)

 俗に段取り八分といいます。住宅工事で、使い勝手の良い安全な足場をつくるためには、適切な足場計画図を描き、それに基づいて材料を用意するなどの準備を怠らないことが大切です。
 足場計画図はどうやって作るのでしょうか。
一般的には、次のような手順で行います。
  1. 敷地の状況や軒の出寸法、工事の内容などを勘案しながら建物からの仮のハナレ(※1)を決める。
  2. 東西方向、南北方向のそれぞれで、建物からの仮のハナレと建物の全長を合計し、足場の仮の全長を決める。
  3. ビケ足場の規格寸法では、足場の全長は300(※2)の倍数でなければならないので、仮の全長に近い300の倍数となる寸法を評価し、実際の全長を決定する。 このとき、300倍数とすることが不都合であれば、150のスパンを全長に加算し、150の倍数となる全長を選択することもできる。
  4. 東西、南北方向の全長が決まったら、建物の入隅出隅に合わせて、足場に凹凸をつける。
  5. 足場の平面的な形が決まったら、建物の出窓や開口などの形状に合わせて、各構面ごとに足場のスパンを割り付ける。 基本的には1800のスパンを使用するが、1500以下の約物のスパンを建物の形状に合わせて適切に割り付けていく。
 以上で足場の平面図は完成です。平面図が出来たら次は、支柱の種類や踏板の高さを立面図に仕上げていきます。
 ところで、こうした一連の手順によって完成する足場図面は、一定の技量があり、敷地の状況などの情報が十分で、かつ最適な足場を組み上げようという意識があれば、作成者によって大きな差異が生じるものではありません。
 ところが、実際の足場図面では、バルコニーの組み方に個人差を感じることが多々、あります。 吊りバルコニーのように外壁の垂直方向に凹凸がある場合、足場のハナレをどうするか、踏板をどのように設置するかについて施工標準が用意されていないことが原因だと思います。 そこで、ここでは、バルコニー周りの足場の組み方を検討してみます。
図1
切妻部の900出バルコニーを一側で組む場合
図2
切妻部の1050出バルコニーを一側で組む場合
バルコニー周りの足場の組み方で注意すること
 バルコニー周りの足場は、次のことを意識して組むことが大切です。(※3)
  1. 原則として二側(ふたかわ)足場(または部分二側(ぶぶんふたかわ))で組む。
    バルコニーが障害となって内柱が途中までしか上がっていない足場を時々、見かけます(図1、図2)。ビケ足場は、標準的に二側足場または部分二側足場で組みます。 1層目の踏板の高さで内柱が止まっていると、構面が長くなればなるほど十分な強度を保つことができません。
  2. バルコニーの中に作業床が必要な場合やバルコニー上部に転落防止用の手すりが必要な場合、バルコニー周りの二側構造の内側からの持ち出しで対応する(図3、図4)。
    バルコニーの中には安易に足場を建てないことが望ましい。バルコニーの中に足場を建てると工事の妨げになることがあります。
    また、二側構造の内側からハネ出すのは、外側からハネ出す場合と比べてバルコニー周りの足場の通行性をジャマしないうえ、強度的にも優れています。
    図1~図4を参照してください。バルコニーの上部が妻壁になっているため、バルコニー周りの足場から足場を持ち出して踏板を設置しています。
    図1と図2では、バルコニー周りの足場が一側ブラケット足場になっています。これでは、バルコニーへのハネ出し部が通行の障害になります。 また、強度的にもバルコニーの中に足場を建てざるを得なくなります。
    一方、図3と図4では、二側足場の内側からハネ出しています。優劣の差は歴然です。
図3
切妻部の900出バルコニーを二側で組む場合
図4
切妻部の1050出バルコニーを二側で組む場合
バルコニーのタイプ(出寸法)別にみたバルコニー周りの足場の組み方
参考までに、バルコニー周りの足場の標準的な組み方を紹介します。
吊りバルコニーは、住宅の基本寸法(モジュール)によって出寸法が違ってきます。900モジュールの建物で考えてみます。 900モジュールの建物では、450、900、1050の3パターンの出寸法が考えられます。
  1. 450出のバルコニーの足場の組み方(図5)
    ハナレ600くらいで内柱を建てます。バルコニーの下部に240幅の踏板を設置し、1層目と2層目の踏板を通常の高さに設けます。この場合、内柱が主柱となります。
  2. 900出のバルコニーの足場の組み方(図6)
    ハナレ1050くらいで内柱を建てます。バルコニーの下部に400幅の踏板を設置し、1層目と2層目の踏板を通常の高さに設けます。この場合も内柱が主柱となります。
    なお、この場合、バルコニーの両サイドを600のブラケットで二側または一側に組むと、踏板から壁面までが遠くなります。 これに対処するには、建物側に内手すりを設置するか、400幅と240幅の踏板を並べて設置します。
  3. 1050出のバルコニーの足場の組み方(図7)
    ハナレ1400くらいで内柱を建てます。バルコニーの下部は2段に踏板を設置します。
    バルコニーの腰壁と踏板の空き寸法が300以上になるので、それに対処するときは内手すりを設置します。
図5
450出のバルコニーの組み方
図6
900出のバルコニーの組み方
図7
1050出のバルコニーの組み方
  バルコニー周りの踏板は、敷地状況によっては400幅ではなく240幅の踏板を設置します。二側とすることが困難な場合は一側足場もやむを得ません。
 作業の内容によっては、バルコニーの腰壁周りの支柱が600のハナレや1050のハナレでは近すぎるという場合もあるでしょう。 このときは、ハナレを700や1150ぐらいに調整します。いずれにしろ、臨機応変(柔軟性)を駆使し、かつ基本に忠実であることが肝要です。(文と絵・松田)


 ※1 ハナレとは建物の壁面から足場の外柱の芯までの長さをいう
 ※2 寸法は全て、㎜単位
 ※3 図中の赤色は踏板の設置位置を示す